SUMMARY
- 深い眠り(徐波睡眠)は一晩の前半、とくに最初の周期に集中する。起きていた時間が長いほど強くなる
- 成長ホルモンは「22時〜2時」という時刻ではなく、寝入って最初の深い眠りに合わせて出る
- 深い眠りは中年までに大きく減る。ただし男性の研究では、その後はほぼ横ばいだった
- 記憶との関係や「脳の老廃物を流す」働きは有力な仮説だが、再現性や反対の結果をめぐる議論が続いている
眠りの質を語るとき、よく「最初の90分が大事」と言われます。眠り始めの深い眠りは、本当にそれほど特別なのでしょうか。この記事では、睡眠研究の論文を読みながら、深い眠りについて確かめられていることとまだ仮説の段階のことを分けて整理します。
睡眠サイクル:深いノンレム睡眠は一晩の前半に集まる
眠りは、浅いノンレム睡眠、深いノンレム睡眠(徐波睡眠、N3)、レム睡眠をおよそ90〜120分の周期でくり返します。脳波で見ると、深い眠りの強さを表す「徐波活動」は最初の周期でいちばん大きく、周期を重ねるごとに下がっていきます。若い成人8人を調べた1981年の研究では、徐波の強さは1周期目から3周期目にかけて急に下がっていました。徹夜したあとの夜は、反対に徐波が大きく増えました[2]。
この現象を説明するのが、スイスの研究者ボルベイが1982年に示した「睡眠の2過程モデル」です[1]。眠りを決める仕組みを2つに分けて考えます。
- 過程S:起きている時間に応じて、眠りへの圧力(眠気)がたまっていく
- 過程C:体内時計が、眠りやすい時間帯と眠りにくい時間帯をつくる
過程Sの圧力は、眠り始めがいちばん高く、眠るにつれて減っていきます。そのため、眠り始めに深い眠りが集まるのです。
周期ごとの深い眠りの強さ(模式図)
研究[2]の傾向をもとに編集部が描いた模式図で、実測値ではありません。深い眠りの強さは周期を重ねるごとに下がり、徹夜明けの夜は1周期目が大きくなります。
睡眠のゴールデンタイムは本当か:成長ホルモンは「寝入り」に出る
「22時から2時は成長ホルモンが出るゴールデンタイム」という言い方を聞いたことがあるかもしれません。研究が示しているのは、少し違う姿です。
その後、30秒ごとに血液をとって測った研究でも、成長ホルモンの分泌は深い眠りの段階で高くなっていました。深い眠りが始まってから数分以内に、分泌が最大になります[4]。
薬で深い眠りを増やした実験もあります。若い男性8人に、深い眠りを増やす作用のある薬(GHB)を飲んでもらったところ、深い眠りの増加と一緒に成長ホルモンの分泌がおよそ2倍になりました。増えた分は寝入ってから最初の2時間に集中していました[5]。薬を使った実験なので、そのまま日常に当てはめることはできません。それでも、深い眠りと成長ホルモンが連動していることをよく示しています。
年齢とともに、深い睡眠はどう変わるか
深い眠りは年齢とともに減ります。5〜102歳の3,577人を含む65の研究をまとめたメタ解析でも、深い眠りの割合は成人で年齢とともに減っていました[6]。
ただし、減り方は一様ではありません。16〜83歳の健康な男性149人を調べた研究では、一晩に占める深い眠りの割合は次のように変わっていました[7]。
| 年齢 | 深い眠りの割合 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 16〜25歳 | 18.9% | 若いころは一晩の約2割が深い眠り |
| 36〜50歳 | 3.4% | 中年までに大きく減る |
| 50歳以降 | それ以上は大きく減らない | 71〜83歳まで、ほぼ横ばい |
この研究では、成長ホルモンの分泌も若年から中年にかけて減っていました。年齢の影響を除いても、深い眠りと成長ホルモンには関連がありました[7]。高齢になると、深い眠りを生む徐波そのものが小さく、少なくなり、とくに脳の前の方で目立つとまとめたレビューもあります[8]。
注意したいのは、この研究が男性だけを対象にしている点です。また、同じ人を長年追いかけたのではなく、年齢の違う人どうしを比べています。
深い睡眠と記憶の定着:有力だが、見直しも進む
深い眠りの間に、その日の記憶が脳の中で再生され、長く残る形に整理されるという仮説があります。多くの研究を集めたレビューで、広く知られるようになりました[9]。代表的な実験は次の2つです。
- 眠り始めのノンレム睡眠中に、頭に弱い電気刺激(0.75Hz)を与えると、単語の記憶がよく残った[10]
- 脳波の徐波のリズムに合わせて小さな音を鳴らすと、記憶の定着がよくなった。タイミングをずらすと効果はなかった[11]
ところが近年は、慎重な見方が増えています。この分野の中心的な研究者自身が、主な結果の一部は再現できなかったか、条件をそろえたときにしか出ないと認めています。効果はこれまで考えられていたより小さく、課題によって違う可能性があるとも述べています[12]。
音の刺激についての12研究・206人のメタ解析では、効果は研究が新しくなるほど小さくなっていました。若い人から中年の人に限ると、全体の効果ははっきりしなくなりました。一方で、刺激によって徐波そのものが増えることは、くり返し確かめられています[13]。
睡眠で脳の老廃物(脳のゴミ)は流されるのか
2013年、マウスの実験から、脳の老廃物の排出が睡眠中に高まるという研究が発表されました[14]。眠っているマウスでは、脳細胞のすき間が約60%広がりました。脳脊髄液(脳と脊髄を包む液体)の入れ替わりが増え、アルツハイマー病に関わるとされるβアミロイドが速く取り除かれていました。この排出の仕組みは「グリンパティック系」と呼ばれ、大きな注目を集めました。
しかし2024年、同じくマウスを使った別の研究が、反対の結果を報告しました。脳から色素が抜ける速さを測ると、睡眠中や麻酔中は、起きているときより遅くなっていたのです[15]。この研究の方法にも批判があり、議論は続いています。
ヒトでは、まだ間接的な証拠にとどまります。
- 脳の画像検査(fMRI)で、ノンレム睡眠中に徐波、脳の血流、脳脊髄液の大きな波が連動して起きることが観察された[16]。ただし、見ているのは「流れ」で、老廃物の量を直接測ったものではない
- 造影剤を使ったMRIの研究では、一晩眠らなかった7人は、眠った17人より脳から造影剤が抜けるのが遅かった[17]。人数が少なく、対象は検査を受けた患者だった
深い睡眠の研究、根拠の強さ一覧
| 主張 | 根拠 | おもな研究 |
|---|---|---|
| 深い眠りは一晩の前半に集まり、起きていた時間が長いほど強くなる | 根拠 強 | [1][2]と多数の追試 |
| 成長ホルモンは寝入りの深い眠りに合わせて出る | 根拠 強 | [3][4][5] |
| 深い眠りは中年までに大きく減る | 根拠 強 | [6][7] |
| 深い眠りが記憶の定着を助ける | 根拠 中 | [9]〜[13]。効果の大きさや再現性には議論がある |
| 睡眠中に脳の老廃物の排出が高まる | 根拠 弱 | [14]〜[17]。マウスでは結果が分かれ、ヒトでは間接的な証拠のみ |
研究から導ける、深い睡眠をとる習慣
- 起きる時刻をそろえ、日中はしっかり起きて眠気をためる(過程S)
- 昼寝は短く早めにする。夕方以降の長い昼寝は、夜の最初の深い眠りを弱める
- 寝る時刻にこだわりすぎず、寝入りを妨げる要因(刺激、暑さ、カフェイン、お酒)を減らす
- 年齢とともに深い眠りが減るのは自然なこと。数字より、日中の調子で判断する

GEAR — 眠りを記録する
SOXAI RING 2指にはめて睡眠を記録するスマートリング。家庭用の機器は、睡眠段階を脳波ほど正確には判定できません。深い眠りの分数より、毎日の寝る時刻・起きる時刻・睡眠時間の傾向を見るのに向いています。
公式サイトを見る参考文献
- Borbély AA. A two process model of sleep regulation. Human Neurobiology. 1982;1(3):195-204. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7185792/
- Borbély AA, Baumann F, Brandeis D, Strauch I, Lehmann D. Sleep deprivation: effect on sleep stages and EEG power density in man. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1981. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6165548/
- Takahashi Y, Kipnis DM, Daughaday WH. Growth hormone secretion during sleep. J Clin Invest. 1968;47(9):2079-90. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/5675428/
- Holl RW, Hartman ML, Veldhuis JD, Taylor WM, Thorner MO. Thirty-second sampling of plasma growth hormone in man: correlation with sleep stages. J Clin Endocrinol Metab. 1991;72(4):854-61. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2005213/
- Van Cauter E, Plat L, Scharf MB, Leproult R, et al. Simultaneous stimulation of slow-wave sleep and growth hormone secretion by gamma-hydroxybutyrate in normal young men. J Clin Invest. 1997;100(3):745-53. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9239423/
- Ohayon MM, Carskadon MA, Guilleminault C, Vitiello MV. Meta-analysis of quantitative sleep parameters from childhood to old age in healthy individuals. Sleep. 2004;27(7):1255-73. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15586779/
- Van Cauter E, Leproult R, Plat L. Age-related changes in slow wave sleep and REM sleep and relationship with growth hormone and cortisol levels in healthy men. JAMA. 2000;284(7):861-8. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10938176/
- Mander BA, Winer JR, Walker MP. Sleep and Human Aging. Neuron. 2017;94(1):19-36. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28384471/
- Rasch B, Born J. About sleep's role in memory. Physiol Rev. 2013;93(2):681-766. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23589831/
- Marshall L, Helgadóttir H, Mölle M, Born J. Boosting slow oscillations during sleep potentiates memory. Nature. 2006;444:610-3. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17086200/
- Ngo HV, Martinetz T, Born J, Mölle M. Auditory closed-loop stimulation of the sleep slow oscillation enhances memory. Neuron. 2013;78(3):545-53. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23583623/
- Cordi MJ, Rasch B. How robust are sleep-mediated memory benefits? Curr Opin Neurobiol. 2021;67:1-7. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32711356/
- Harlow TJ, Jané MB, Read HL, et al. Memory retention following acoustic stimulation in slow-wave sleep: a meta-analytic review of replicability and measurement quality. Frontiers in Sleep. 2023;2. https://www.frontiersin.org/journals/sleep/articles/10.3389/frsle.2023.1082253/full
- Xie L, Kang H, et al., Nedergaard M. Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science. 2013;342(6156):373-7. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24136970/
- Miao A, et al., Wisden W, Franks NP. Brain clearance is reduced during sleep and anesthesia. Nat Neurosci. 2024;27(6):1046-50. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38741022/
- Fultz NE, et al., Lewis LD. Coupled electrophysiological, hemodynamic, and cerebrospinal fluid oscillations in human sleep. Science. 2019;366:628-31. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31672896/
- Eide PK, et al., Ringstad G. Sleep deprivation impairs molecular clearance from the human central nervous system. Brain. 2021;144(3):863-74. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33829232/
本記事は公開時点の研究をもとに編集部がまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない状態が続く、日中の強い眠気がある、いびきや呼吸の停止を指摘されたなどの場合は、医療機関に相談してください。


