SUMMARY
- 6時間睡眠を2週間続けると、注意力の低下は徹夜1〜2晩分に近づく。それなのに本人の眠気はあまり増えない
- 平日の睡眠不足を週末の寝だめで補っても、インスリンの効きの低下は戻らなかった
- 睡眠時間と死亡率は短すぎても長すぎても関連する。ただし長時間睡眠は病気のサインの可能性がある
- 前日の睡眠が4時間未満だと、事故の過失側になる確率が大きく上がる
「平日は6時間しか眠れないけれど、週末にまとめて寝ているから大丈夫」。そう考えている人は少なくありません。睡眠不足を借金にたとえた「睡眠負債」という言葉は広く知られるようになりましたが、実際にどんな影響が積み重なるのでしょうか。研究を順に見ていきます。
睡眠負債とは:6時間睡眠を続けると、気づかないうちに能力が落ちる
結果は、睡眠負債を考えるうえで重要なものでした。
- 4時間群と6時間群では、注意力のテストの成績が日を追うごとに下がり続けた
- 6時間以下の睡眠を2週間続けた低下は、最大で徹夜2晩分に相当した
- 本人が感じる眠気は最初の数日で上がったあと、ほとんど増えなかった。6時間群と4時間群で、眠気の自己評価に差がなかった
寝だめで睡眠負債は返せるか:週末の回復睡眠の実験
| 群 | インスリンの効き(全身) | その他の変化 |
|---|---|---|
| 5時間睡眠を続ける | 約13%低下 | 夕食後の食べる量と体重が増えた |
| 平日5時間+週末に寝だめ | 約9〜27%低下 | 週明けに体内時計が遅れ、夕食後の食べる量と体重が増えた |
週末に好きなだけ眠ってよいとしても、取り戻せた睡眠は合計で約1.1時間にとどまりました。週明けに再び睡眠不足になると、インスリンの効きは寝だめをしなかった群と同じかそれ以上に落ちていました。寝だめで体内時計が後ろにずれたことも影響したと考えられます。
睡眠不足と代謝の関係は、それ以前の研究でも示されています。
- 若い男性11人が寝床にいる時間を4時間にして6晩過ごすと、ブドウ糖を処理する力が落ち、夕方のストレスホルモン(コルチゾール)が高くなった[3]
- 12人を対象にした比較試験では、睡眠を2晩制限するだけで、食欲を抑えるホルモン(レプチン)が18%減り、食欲を高めるホルモン(グレリン)が28%増えた。空腹感は24%強まり、炭水化物の多い食べ物を求める気持ちも高まった[4]
理想の睡眠時間は何時間か:死亡率と推奨時間、日本人の平均
16研究・約138万人のメタ解析では、主に7〜8時間眠る人を基準にした死亡リスクは次のとおりでした[5]。
| 睡眠時間 | 死亡リスク(基準との比) | 読み方 |
|---|---|---|
| 短い(研究ごとに4時間以下〜7時間未満) | 1.12倍 | 睡眠不足が健康に響いている可能性 |
| 長い(研究ごとに8時間超〜12時間以上) | 1.30倍 | 病気のために長く眠っている可能性もある |
観察研究なので、「長く眠ると死亡率が上がる」とは読めません。体調が悪い人ほど長く眠るという、逆向きの関係が含まれている可能性が高いからです。睡眠時間は本人の申告で、「短い」「長い」の区切りも研究によって違います。
米国の睡眠学会などは、専門家の合議で推奨睡眠時間を示しています。成人は7時間以上[6]、または7〜9時間(高齢者は7〜8時間)です[7]。日本人の睡眠時間は国際的に見て短い方だとされ、OECDの時間の使い方の調査をもとにした国内の資料では、比較した国の中で最も短い部類と紹介されています[8]。
睡眠不足と運転:前日の睡眠が4時間未満だと
睡眠不足がいちばん直接的に命に関わるのは、運転です。米国で事故に関わった運転者6,845人を分析した研究では、前日の睡眠が7〜9時間の人と比べて、事故の過失側になる確率は次のように高くなっていました[9]。
前日の睡眠時間と、事故の過失側になる確率(7〜9時間の人を1とした比)
Tefft(2018)のデータを編集部がグラフ化。4時間未満の値は信頼区間が非常に広い(4.2〜54.4倍)ため、正確な倍率より「桁が違う」ことに注目してください。
ニュージーランドの研究では、自分で眠いと感じながら運転していた人は、重い事故のリスクが約8倍でした[10]。起きてから17〜19時間たったときの成績は、一部のテストで血中アルコール濃度0.05%の状態と同じか、それより悪かったという実験もあります[11]。
睡眠負債の研究、根拠の強さ一覧
| 主張 | 根拠 | おもな研究 |
|---|---|---|
| 睡眠制限が続くと能力の低下が積み重なり、本人は気づきにくい | 根拠 強 | [1]と多数の追試 |
| 週末の寝だめでは代謝の乱れが戻らない | 根拠 中 | [2]。若い健康な人の短期の実験 |
| 睡眠不足は食欲とブドウ糖の処理を乱す | 根拠 中 | [3][4]。少人数の実験 |
| 短時間睡眠は死亡リスクの上昇と関連する | 根拠 強 | [5]。観察研究のメタ解析 |
| 睡眠不足は運転事故のリスクを高める | 根拠 強 | [9][10][11] |
研究から導ける、睡眠負債の返し方
- まとめて返すより、平日の睡眠を15〜30分ずつ前倒しで増やす
- 休日に寝坊するなら、平日との差は1〜2時間以内にとどめる。体内時計のずれを防ぐ
- 「6時間で平気」という感覚を信じすぎない。日中の集中力や運転中の眠気で判断する
- 眠いと感じたら運転しない。どうしても運転するなら、15〜20分の仮眠をとってから
自分の睡眠負債の目安は、トップページの睡眠負債チェックで、平日と休日の睡眠時間の差から確かめられます。
参考文献
- Van Dongen HP, Maislin G, Mullington JM, Dinges DF. The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep. 2003;26(2):117-26. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12683469/
- Depner CM, Melanson EL, Eckel RH, et al. Ad libitum Weekend Recovery Sleep Fails to Prevent Metabolic Dysregulation during a Repeating Pattern of Insufficient Sleep and Weekend Recovery Sleep. Curr Biol. 2019;29:957-67. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30827911/
- Spiegel K, Leproult R, Van Cauter E. Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function. Lancet. 1999;354:1435-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10543671/
- Spiegel K, Tasali E, Penev P, Van Cauter E. Brief communication: Sleep curtailment in healthy young men is associated with decreased leptin levels, elevated ghrelin levels, and increased hunger and appetite. Ann Intern Med. 2004;141:846-50. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15583226/
- Cappuccio FP, D'Elia L, Strazzullo P, Miller MA. Sleep duration and all-cause mortality: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Sleep. 2010;33(5):585-92. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20469800/
- Watson NF, Badr MS, Belenky G, et al. Recommended Amount of Sleep for a Healthy Adult: A Joint Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society. Sleep. 2015;38(6):843-4. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26039963/
- Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al. National Sleep Foundation's sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health. 2015;1(1):40-43. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29073412/
- 独立行政法人 労働者健康安全機構. 睡眠に関する資料(OECD Gender data portal 2021 を引用). 2024. https://www.kantor.johas.go.jp/doc/20240326_02.pdf
- Tefft BC. Acute sleep deprivation and culpable motor vehicle crash involvement. Sleep. 2018;41(10):zsy144. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30239905/
- Connor J, Norton R, Ameratunga S, et al. Driver sleepiness and risk of serious injury to car occupants: population based case control study. BMJ. 2002;324:1125. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12003884/
- Williamson AM, Feyer AM. Moderate sleep deprivation produces impairments in cognitive and motor performance equivalent to legally prescribed levels of alcohol intoxication. Occup Environ Med. 2000;57:649-55. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10984335/
本記事は公開時点の研究をもとに編集部がまとめたもので、医療上の助言ではありません。眠れない状態が続く、日中の強い眠気がある、いびきや呼吸の停止を指摘されたなどの場合は、医療機関に相談してください。


